創作と造語

多くの創作世界において造語は物語を彩るフレーバーとして多く用いられます
ファンタジー世界における新たな概念を表現するに際し、新しい言葉を定義することは至極真っ当といえます。また限られた文章の中で冗長な表現を一つの言葉に体系づけられるのは、大きな意味を持つでしょう。

夢物語でも造語が利用されていますが、その中でも全く新たな文字列による造語は使われていません。特にキャラクターの名称がつけられていないことは本作の大きな特徴といえます。このような新規の造語のことを便宜上、新語と呼ぶことにしますが、新語を利用しないのには以下のような理由があります。

・新語はとっつきにくい
もちろん新語をプレイヤーがきちんと理解していればメリットも大きいのですが、ゲームは他のメディアに比べて体験する時間が長い他、次のプレイまでに時間が空くことも多く、それまで新語を覚えていなければならないという欠点があります。
これは特に娯楽という側面では大きなデメリットになるでしょう。

・逆に冗長な表現になる
新語を新しい概念として定着させるためには、正しい説明が必要です。時には何度もその新語について解説することになるでしょう。冗長な表現を避けるという利点があったはずなのに、これでは本末転倒です。

・必然性がない
物語も設定も、必要だからこそ用意されます。これはゲームにおける様々な要素にも当てはまります。新語は確かに雰囲気付けという側面においては必要ですが、その文字列である絶対的な理由は存在しません。

・普遍性を失う
例えばショートショート作家の星新一は人名をエヌ氏やエフ氏などと表現し、具体性を排除しています。不必要な描写が排除され、洗練された普遍的な表現は時代を問わず楽しまれています。
夢物語では一般的に誰もが持ちうる感情や記憶などがテーマとして描かれます。それらを新語で定義づけてしまえば、その世界は普遍性を失ってしまい、むしろプレイヤーと夢物語の距離が広がってしまうのではないかと考えています。

・既存の言葉で十分表現できる
既にある言葉や、その組み合わせによって表現できるのなら何も一から定義する必要はありません。藤子・F・不二雄はSFという言葉に“すこしふしぎ”という解釈を与え、既存のイメージに新しい意義づけをしたともいえます。これはアイデア次第で新しい概念を既存の言葉で分かりやすく届けることができる良い例だと思います。

新語を使うことによって、作品をある意味ファンタジーらしく仕上げることはできますが、物語や世界観としての本質的意義は実際決して大きいとは言えないと思います。もちろん新語やその法則性などによって、特定の地域を連想させたり、今までにない異質さを表現するなど、他にもメリットがないわけではありませんが、新語の利用に固執する必要はないと私は考えています。