表情モーション

現代のゲームにおいて映像は大きな力を持っており、特にキャラクターの表情は物語を演出する上で大きな鍵を握っているといえます。我々は人間ですから、当然人間の顔や表情には非常に敏感です。そこで人間、ないしは人型のキャラクターの表情モーションの構築に際し、ゲームで実装するうえでの課題を考えたいと思います。

従来の研究では、喜び・悲しみ・怒り・驚き・不安・嫌悪の六種類の感情が人間にはあるとされています。これらの感情の組み合わせによって人間は様々な細やかな表情を見せ、その数は数十にも上るそうです。

3DCGにおいてデフォルメされたキャラクターの表情を変化させることは非常に難しいです。アニメーションの方法には大きく分けて、アーマチュアを用いる方法とシェイプキーを用いる方法がありますが、本作では表情の変化にはシェイプキーを利用しています。

私はゲームにおけるモーションは“数が多いが低品質”より、“数が少ないが高品質”であることを理想としています。アーマチュアによる表情は汎用性があり、様々な表情を作ることが可能ですが、その表情を作るために表情筋の動きを全て再現するのはとても時間がかかりますし、ともすれば品質が落ちてしまう可能性もあります。その点シェイプキーであれば直接メッシュを変化させるわけですから、結果的にほしい表情を直接的に作ることができます。ただしシェイプキーはデータ量を食ってしまうことに注意する必要があります。

夢物語ではシェイプキーによって前述した六種類の感情をモーションとして表現します。これらの表情をそれぞれ制作するのには当然時間がかかります。状況に合わせて表情を追加できるような体制が必要不可欠でしょう。

もちろんシェイプキーを組み合わせることも可能であり、我々と同じように様々な表情を形作ることができます。ただし表情の動きに制限は必要です。それぞれのシェイプキーはメッシュ自体を動かすわけですから度が過ぎれば表情が崩れてしまいます。

もちろんキャラクターによって表情の価値基準は変動します。飄々としたキャラクターであれば喜びの表情の優先度が上がり、冷静なキャラクターであれば怒りや驚きの優先度が下がります。そもそも表情の変化自体が少ないキャラクターもいるはずです。

また表情の動きと体の動きを連携させることも重要です。ゲーム画面において小さな表情の動きは見落とされがちです。少し大げさでも、デフォルメを生かしたモーションを取り入れることで、キャラクターの感情を丁寧に伝えることができるでしょう。